ナセナル総合会計事務所は、埼玉県に事務所を構える会計・税務事務所だ。中小企業を顧客に持ち、会計税務顧問業務、CFO代行サービスを提供している。代表の奈良佳和氏は、大手監査法人・個人税理士事務所での勤務を経て2022年7月に開業。DXの波が押し寄せ、会計・税理士にも大きな変化が求められている。
どのような思いで、顧客企業の成長を支援していくのか。
ナセナル総合会計事務所 代表 奈良佳和氏に聞いた。
どのような思いで、顧客企業の成長を支援していくのか。
ナセナル総合会計事務所 代表 奈良佳和氏に聞いた。
公認会計士としてキャリアを築く
公認会計士を目指したのは大学生の時。他の学生のように大手企業への就職を目指すのではなく、資格を取得し手に職を付ける道を選んだ。当時は就職氷河期であり、人と同じことをしていては今後、勝てないと考えたからだ。定めた目標は公認会計士試験。大学で学んでいた商学系で、最難関の資格であったのがきっかけだった。公認会計士試験に合格後は、ほとんどの会計士試験合格者と同じように、監査法人へ就職した。入社した有限責任監査法人トーマツは日本で4大監査法人に数えられる大手だ。当時花形であった金融事業部へ配属された。
「当時から中小企業経営に関心があり、様々な中小企業を貸出先にもつ金融機関を通して中小企業の経営や金融機関側の評価方法を学びたいと思ったのが、金融事業部を志望した理由です。希望は叶ったものの、直後にリーマンショックが起こり、景気が非常に悪い中で会計士としてキャリアをスタートしました。」
会計士の主業務である監査は、顧客企業の財務書類に間違いがないか調べる仕事だ。書類は人が作ったものであるため、それは誰かの粗を探すことでもあった。社内でも上司や仲間に恵まれ同期より昇格も早く順調であったが、財務書類をチェックする側ではなく顧客と一緒に作る仕事で直に顧客に役立つ仕事をしたいと考えるようになる。
個人税理士事務所への転職と見つけた課題
公認会計士の代表的なキャリアは、大手監査法人に入り経験を積んだのち、コンサル業界や、事業会社に転身することだ。しかし入社5年目、中小企業の経営や財務書類の作成をより近くで支援できる個人税理士事務所との縁を得たこともきっかけで、税理士としてさいたま市の個人税理士事務所に転職。主に中小企業を相手に税務相談や申告業務を行った。転職先に個人税理士事務所を選んだのは、将来独立し自分の事務所を開く意志があったからだ。そして業務を通し、気付いたことがある。
「この先、会計税務の仕事は縮小していくと感じました。ソフトウェアを用いたサービスが広がることで、業務の大部分が人ではなくシステムに置き換えられていくはずです。AIが急速に高度化していますので、省人化の流れはさらに加速するでしょう。今は人が行っている申告業務も、税理士なしで各社が行うようになるはずです。社会が変化する中で、自分が出せる付加価値とはなにか考えることになりました。」
税理士事務所で働き、これからの公認会計士・税理士として在り方を模索する中で、公認会計士・税理士としての付加価値を更に高めるため、次のキャリアとしては独立ではなく、古巣であるトーマツに戻ることを選んだ。また、退職後もトーマツ時代の上司や同僚とつながりがあり、復帰を打診されたことも一因だ。
付加価値を高めるため、トーマツでは監査と並行しM&Aのデューデリジェンスや企業評価額の算出、IPO支援、中小企業向けBCPの策定支援、事業計画策定の支援や、起業を目指す人へ2代目経営者のメンタリングなど多岐にわたる活動を行った。
大手監査法人ではできない仕事を目指して独立
2022年7月1日、ナセナル綜合会計事務所を設立した。きっかけはトーマツではできない仕事が増えてきたためだ。大手監査法人の場合、顧客の事業規模によっては仕事を受けられないこともある。サポートしたいと思っても、法人の判断で断らなくてはならないのだ。個人的なご縁の顧客からの依頼が増えてきたこともあり独立を決めた。
会計士が個人で独立する場合、税務を中心に決算業務を受託するか、IPOなどコンサル業務を受託するのが一般的だ。独立前の個人税理士事務所5年間の勤務で、顧客の期待するものと、提供できる役割にギャップがあることを感じる機会が多くあった。毎年の税務は担当できるが、経営支援に深くかかわることは難しい。また顧客からも、相談できる相手だと思われていないのだった。
「個人税理士事務所での勤務を通し、お客様にとって、”税理士事務所は決算してくれるところ”なのだと実感しました。税理士事務所側も決算・税務申告のみしか提供しないと割り切っており顧客も可能性を低く見積もっているためです。今の外部環境を想像すると、顧客ニーズも変化しており会計事務所も顧客ニーズ対応するための変化が必要です。」
そのため、経営サポートまで手掛ける事務所を目指した。会計・税理士事務所は記帳代行や税務申告業務を行っているケースと、広く事業に関する悩み相談に対応する事務所が増加し過渡期に来ている。世代交代により、若い世代ほど変化の必要性を感じているのだ。
メンタリングに基づいたサポート
独立する前から埼玉県内の経営者が集う「埼玉ニュービジネス協議会」に監事として参画するなど、地域ネットワークを築いてきた。顧客は埼玉県内に拠点を持つ、年商1億5000万円位の中小企業から上場企業までと幅広くほとんどが紹介だ。経理担当者が最低限の経理を行っているものの、資金繰りや事業計画策定、補助金の対応等財務部長の仕事も社長が担っている企業が多い。当事務所は会計税務と並行して、事業再生支援や金融機関との交渉、返済の調整、事業計画策定等CFO・財務部長などの役割も行う。業務は事業の課題や悩みを聞く時間も長い。
経営者の判断、意思決定に関わっていく業務はやりがいがあり、社長もそれを求めていると感じる。顧客の業種は様々だ。選り好みする必要がないのは、業種に縛られない手法を持っているからである。
「CFO代行サービスとして事業計画策定には、メンタリングを取り入れた手法を取ってサポートしています。コンサルティングは教える立場に立つ必要があるため、顧客の専門領域についての知識や経験が必要となります。一方でメンタリングは、顧客の中にある答えを引き出す手法です。相手の話を聞いて、考えを整理するお手伝いをするのがメンターの役割です。気付きを与えるので、教えるわけではありません。経営者・起業家は何かしら思いを持たれていますし、自社・事業界の課題は充分わかっていることがほとんどです。課題ややりたいことの言語化のお手伝いをするのが私の仕事です。これまで創業支援のメンターを務める中で身に着けたスキルです。」
中小企業の課題は、会計に関することだけでなく、資金繰り、法務や労務、マーケティングなど多様だ。自分が未経験なことは他の専門家に頼る。県や市の活動を行った中でできた専門家の繋がりを活用し支援している。
事業の未来図
現在、事務所は一人で業務を行っている。自分が見れる範囲内で、付加価値の高い顧客のサポートを行うことを念頭に置いているからだ。個人税理士事務所で働いていた時は、お客様から「税理士が来ない」という不満を聞くことがあった。顧問として業務を行うだけでなく、顔を合わせて話をしたり、アドバイスをすることが本来の価値であると考える。 だから、日頃から顧客の声を聞くことを大切にしている。「面談の際には顧客の話を聞いて、引き出すことを重視しています。ニーズであったり課題であったり。コツとしては当たり前のことですが、相手の話を遮らない、否定しない。この人には何でも話していいんだという心理的安全性のある関係構築を重視しています。」
顧客の年代は、70代から20代・30代と自分より年下の経営者もいる。監査をやっていく中で話を聞く、難解なこともわかりやすく伝えるのは重要な仕事のため、コミュニケーションを身に着けてきた。
企業を成長させる経営計画・事業計画策定のためには、経営者の持っているビジョンを明確にすることが重要となる。ビジョンが変わればやるべきことも変わる。事業の優先順位を決めたり、報酬体系を変えたりすることも出てくる。
中小企業向けの事業を始めて気付いたこととしては、顧客が求めていることは決して税務知識が必要であったり、難易度の高い事柄ばかりではないということだ。システムを導入して記帳を自動化したり、手計算していた経費や売上管理をシステム化するなど、日頃の業務効率化すら充分にできていないケースがある。 このような改善は経営者だけでなく、業務フローの改善を行うことで、企業全体の生産性改善に貢献できる。また、従業員を納得しながら巻き込むことも可能になった。
「企業が新規事業に取り組めない理由は資金ばかりではありません。経営者も従業員も今の仕事で手一杯で、新しいことを始める余裕がないことが多いのです。業務改善を行うことで仕事があふれている状況を解消し、チャレンジできる組織を作るお手伝いもしています。」
会計士・税理士として会社の経営状態を安定させるだけでなく、より生産性が高く、従業員が幸せに働ける職場づくりに貢献できるのだ。
今後、どのような事務所を目指していくのか。一番は、顧客企業の企業価値を上げることだ。企業の成長が追うべき目標であり、達成するためのお手伝いをしていく。
「ゆりかごから墓場までと言いますが、困りごとが起こった際に、とりあえず相談してみようと思ってもらえる存在を目指しています。」
ナセナル総合会計事務所は、埼玉県に事務所を構える会計・税務事務所だ。中小企業を顧客に持ち、会計税務顧問業務、CFO代行サービスを提供している。代表の奈良佳和氏は、大手監査法人・個人税理士事務所での勤務を経て2022年7月に同社を創業。DXの波が押し寄せ、会計・税理士にも大きな変化が求められている。
どのような思いで、顧客企業の成長を支援していくのか。
ナセナル総合会計事務所 代表 奈良佳和氏に聞いた。
どのような思いで、顧客企業の成長を支援していくのか。
ナセナル総合会計事務所 代表 奈良佳和氏に聞いた。
公認会計士として
キャリアを築く
公認会計士を目指したのは大学生の時。他の学生のように大手企業への就職を目指すのではなく、資格を取得し手に職を付ける道を選んだ。当時は就職氷河期であり、人と同じことをしていては今後、勝てないと考えたからだ。定めた目標は公認会計士試験。大学で学んでいた商学系で、最難関の資格であったのがきっかけだった。
公認会計士試験に合格後は、ほとんどの会計士試験合格者と同じように、監査法人へ就職した。入社した有限責任監査法人トーマツは日本で4大監査法人に数えられる大手だ。当時花形であった金融事業部へ配属された。
「当時から中小企業経営に関心があり、様々な中小企業を貸出先にもつ金融機関を通して中小企業の経営や金融機関側の評価方法を学びたいと思ったのが、金融事業部を志望した理由です。希望は叶ったものの、直後にリーマンショックが起こり、景気が非常に悪い中で会計士としてキャリアをスタートしました。」
会計士の主業務である監査は、顧客企業の財務書類に間違いがないか調べる仕事だ。書類は人が作ったものであるため、それは誰かの粗を探すことでもあった。社内でも上司や仲間に恵まれ同期より昇格も早く順調であったが、財務書類をチェックする側ではなく顧客と一緒に作る仕事で直に顧客に役立つ仕事をしたいと考えるようになる。
個人税理士事務所への
転職と見つけた課題
公認会計士の代表的なキャリアは、大手監査法人に入り経験を積んだのち、コンサル業界や、事業会社に転身することだ。しかし入社5年目、中小企業の経営や財務書類の作成をより近くで支援できる個人税理士事務所との縁を得たこともきっかけで、税理士としてさいたま市の八木茂税理士事務所に転職。主に中小企業を相手に税務相談や申告業務を行った。
転職先に個人税理士事務所を選んだのは、将来独立し自分の事務所を開く意志があったからだ。そして業務を通し、気付いたことがある。
「この先、会計税務の仕事は縮小していくと感じました。ソフトウェアを用いたサービスが広がることで、業務の大部分が人ではなくシステムに置き換えられていくはずです。AIが急速に高度化していますので、省人化の流れはさらに加速するでしょう。今は人が行っている申告業務も、税理士なしで各社が行うようになるはずです。社会が変化する中で、自分が出せる付加価値とはなにか考えることになりました。」
税理士事務所で働き、これからの公認会計士・税理士として在り方を模索する中で、公認会計士・税理士としての付加価値を更に高めるため、次のキャリアとしては独立ではなく、古巣であるトーマツに戻ることを選んだ。また、退職後もトーマツ時代の上司や同僚とつながりがあり、復帰を打診されたことも一因だ。
付加価値を高めるため、トーマツでは監査と並行しM&Aのデューデリジェンスや企業評価額の算出、IPO支援、中小企業向けBCPの策定支援、事業計画策定の支援や、起業を目指す人へ2代目経営者のメンタリングなど多岐にわたる活動を行った。
大手監査法人ではできない
仕事を目指して独立
2022年7月1日、ナセナル綜合会計事務所を設立した。きっかけはトーマツではできない仕事が増えてきたためだ。大手監査法人の場合、顧客の事業規模によっては仕事を受けられないこともある。サポートしたいと思っても、法人の判断で断らなくてはならないのだ。個人的なご縁の顧客からの依頼が増えてきたこともあり独立を決めた。
会計士が個人で独立する場合、税務を中心に決算業務を受託するか、IPOなどコンサル業務を受託するのが一般的だ。独立前の個人税理士事務所5年間の勤務で、顧客の期待するものと、提供できる役割にギャップがあることを感じる機会が多くあった。毎年の税務は担当できるが、経営支援に深くかかわることは難しい。また顧客からも、相談できる相手だと思われていないのだった。
「個人税理士事務所での勤務を通し、お客様にとって、”税理士事務所は決算してくれるところ”なのだと実感しました。税理士事務所側も決算・税務申告のみしか提供しないと割り切っており顧客も可能性を低く見積もっているためです。今の外部環境を想像すると、顧客ニーズも変化しており会計事務所も顧客ニーズ対応するための変化が必要です。」
メンタリングに基づいた
サポート
独立する前から埼玉県内の経営者が集う「埼玉ニュービジネス協議会」に監事として参画するなど、地域ネットワークを築いてきた。顧客は埼玉県内に拠点を持つ、年商1億5000円位の中小企業から上場企業までと幅広くほとんどが紹介だ。経理担当者が最低限の経理を行っているものの、資金繰りや事業計画策定、補助金の対応等財務部長の仕事も社長が担っている企業が多い。当事務所は会計税務と並行して、事業再生支援や金融機関との交渉、返済の調整、事業計画策定等CFO・財務部長などの役割も行う。業務は事業の課題や悩みを聞く時間も長い。
経営者の判断、意思決定に関わっていく業務はやりがいがあり、社長もそれを求めていると感じる。顧客の業種は様々だ。選り好みする必要がないのは、業種に縛られない手法を持っているからである。
「CFO代行サービスとして事業計画策定には、メンタリングを取り入れた手法を取ってサポートしています。コンサルティングは教える立場に立つ必要があるため、顧客の専門領域についての知識や経験が必要となります。一方でメンタリングは、顧客の中にある答えを引き出す手法です。相手の話を聞いて、考えを整理するお手伝いをするのがメンターの役割です。気付きを与えるので、教えるわけではありません。経営者・起業家は何かしら思いを持たれていますし、自社・事業界の課題は充分わかっていることがほとんどです。課題ややりたいことの言語化のお手伝いをするのが私の仕事です。これまで創業支援のメンターを務める中で身に着けたスキルです。」
中小企業の課題は、会計に関することだけでなく、資金繰り、法務や労務、マーケティングなど多様だ。自分が未経験なことは他の専門家に頼る。県や市の活動を行った中でできた専門家の繋がりを活用し支援している。
事業の未来図
現在、事務所は一人で業務を行っている。自分が見れる範囲内で、付加価値の高い顧客のサポートを行うことを念頭に置いているからだ。個人税理士事務所で働いていた時は、お客様から「税理士が来ない」という不満を聞くことがあった。顧問として業務を行うだけでなく、顔を合わせて話をしたり、アドバイスをすることが本来の価値であると考える。 だから、日頃から顧客の声を聞くことを大切にしている。「面談の際には顧客の話を聞いて、引き出すことを重視しています。ニーズであったり課題であったり。コツとしては当たり前のことですが、相手の話を遮らない、否定しない。この人には何でも話していいんだという心理的安全性のある関係構築を重視しています。」
顧客の年代は、70代から20代・30代と自分より年下の経営者もいる。監査をやっていく中で話を聞く、難解なこともわかりやすく伝えるのは重要な仕事のため、コミュニケーションを身に着けてきた。
企業を成長させる経営計画・事業計画策定のためには、経営者の持っているビジョンを明確にすることが重要となる。ビジョンが変わればやるべきことも変わる。事業の優先順位を決めたり、報酬体系を変えたりすることも出てくる。
中小企業向けの事業を始めて気付いたこととしては、顧客が求めていることは決して税務知識が必要であったり、難易度の高い事柄ばかりではないということだ。システムを導入して記帳を自動化したり、手計算していた経費や売上管理をシステム化するなど、日頃の業務効率化すら充分にできていないケースがある。 このような改善は経営者だけでなく、業務フローの改善を行うことで、企業全体の生産性改善に貢献できる。また、従業員を納得しながら巻き込むことも可能になった。
「企業が新規事業に取り組めない理由は資金ばかりではありません。経営者も従業員も今の仕事で手一杯で、新しいことを始める余裕がないことが多いのです。業務改善を行うことで仕事があふれている状況を解消し、チャレンジできる組織を作るお手伝いもしています。」
会計士・税理士として会社の経営状態を安定させるだけでなく、より生産性が高く、従業員が幸せに働ける職場づくりに貢献できるのだ。
今後、どのような事務所を目指していくのか。一番は、顧客企業の企業価値を上げることだ。企業の成長が追うべき目標であり、達成するためのお手伝いをしていく。
「ゆりかごから墓場までと言いますが、困りごとが起こった際に、とりあえず相談してみようと思ってもらえる存在を目指しています。」